多くの企業の人事部長、事業部長、重役の方が我が大学に訪問される際、電気電子情報工学専攻の担当の一人として、これまでに100名を超える方々とお話しする機会があった。いわゆる求人のこの方たちは、会社をより詳しく知ってもらうために大学に来られる。

2011年のリーマンショック以降、企業の業績は回復基調にあるものの、先行きがどうなのかは新聞を読んでもよく解らない。ところが、企業戦線のフロントで日夜戦い続けている現場の方たちにお会いすると、直接判ることがある。数十社の方々と会った結果、自分の中におぼろげながら今の国内企業のイメージが浮かんで来た。

企業の方からは、「企業は世界の中で激烈な競争に曝されている。中でも韓国、インド、中国、ロシアなどからの追い上げは急であり、日本が得意とした設計能力、製作精度という点でも遅からず追いつかれ、追い抜かれるペースでの追い上げを受けている。」と聞く。

そこで、「御社はこの5年、10年をどういう方針で運営していこうと思っておられるのでしょうか?学生からも時々聞かれますので、良ければお聞かせいただけますか?」と尋ねてみる。

答えとしては、「追い抜かれるのは、ある程度覚悟です。また消耗戦になっているのも良く解っています。現在の分野の状況から、解ってはいても私どもにはどうすることも出来ません。最大限の努力をするだけです。」という意見が多い。こうした中には、老舗と言われても傾いている企業も多い。

世界の鼻先を駆け抜けるような発想の企業は無いのだろうか?

博士後期課程を終えた優秀な人材を使いこなす企業は、世界でも高い競争力を持つのは自明であろう。企業が人材の高機能・高密度化を図れば自ずと大学と企業の連携が成立する。博士を取得した学生は、いったいどんな人たちなのかは意外に会社には知られていない。博士課程の間に、学生は、(1)研究課題を設定し、(2)その解決手法を考え出し、(3)実際に実験もしくは理論を通じて課題解決する、という一連のプロセスを、全て自分の責任で行う。この課程で、関係のある国内外の研究者と議論し、海外の大学で実験やシミュレーションを行う機会もある。その結果、語学は堪能になり、国際的な視野を持ち、チームを率いる事も出来る、国内外に友人を持つ人間が育つ事になる。アメリカの大学でプラズマ分野のPhDを取ったインド国籍の友人は、専門と何の関係もないアメリカのフィルム会社に入り、その後まもなく副社長に登り詰めた。

私の考えに非常に近い企業の人事の方が訪ねてこられたことがある。この企業は、700人を超える一級建築士、1700人を超える電気主任技術者を抱える高密度の技術者集団である。シーズアウトにより、ユニークな発想で省エネを達成し、安定電源を持つオフィスビルの設計・建築で業績を伸ばしている。その方に、「どうしてこうした構造改革が可能だったのですか?」と聞いてみた。返答は外的な要因での構造改革であった。日本では、内部から、社長自らが先進的な会社を築くには未だ至っていないようだ。しかし、能力の高い人材を高密度に抱えるこうした企業は、将来の日本企業の可能性を示している。

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