1. 研究の目的
核融合炉高粒子束ビーム照射実験
ここは超高温工学講座 西川研究室 高粒子束ビーム照射グループのHome Page です。
我々のグループ〔高粒子束ビーム照射グループ〕は、核融合炉の実現に向けた基礎研究を行っています。
『核融合炉って何?』という方はこちらのページへ⇒  なっとく核融合
それでは核融合炉の研究とはどんな感じ?という事について説明していきましょう!
核融合炉の中って?
核融合炉では、核融合反応を起こす高温のプラズマを真空容器の中に閉じ込めています。
この閉じ込めの時、プラズマがその周りの壁と接触するとプラズマ自体が維持できないので、周りの壁と接触しない様に磁場を使って真空容器の中にプラズマを浮かせるように閉じ込めています。



図1 核融合炉断面図 (プラズマの閉じ込め)
しかしながら、プラズマを完全に壁から離すことは出来ず、周辺のプラズマは壁と接触してしまいます。このプラズマに直接面している材料はプラズマ対向材料と呼ばれ、第一壁、ダイバータ等がそれにあたります。
周辺プラズマがプラズマ対向材料に接触すると、熱を与えたりあるいはプラズマ中のイオンが衝突することで、材料の表面を損傷したり材料中にプラズマ中のイオンである水素が取り込まれたりします。

プラズマ対向材料はそれだけ過酷な状況に置かれているといえます

 プラズマと接触すると? 〜プラズマ・壁相互作用 〜  ←クリック!!!
プラズマと壁が接触するとどんな現象が起こるのでしょうか? プラズマ・壁相互作用とは?
どんな材料が適してる?  ←クリック!!
核融合炉の環境に適した材料とは?
どんな研究をしているの?
核融合炉の壁材料の選択を行うためには、候補材料について幅広く評価をしなければなりません。
核融合炉内の環境を想定したプラズマ・壁相互作用の研究は、材料評価に対して大きな意味を持っています。

我々の研究グループでは、
定常高粒子束ビーム装置 HiFITを用いたプラズマ・壁相互作用に関する研究を行い、核融合炉で想定される状況・現象を詳しく理解していくと共に、実効的な第一壁、ダイバータの開発を行っています。
プラズマ・壁相互作用に関する材料照射実験は、イオンビームを材料に照射する事により行われてきました。この実験により多くの点が明らかになりましたが、このとき材料に照射されたイオンビームのフラックス(単位面積・単位時間あたりに入るイオンの量)は、実際の核融合炉の壁材料に入るフラックスより2桁以上小さく(イオンビーム:1020-2s-1以下、核融合炉の第一壁〔特に高い熱入力があるダイバータ部分など〕:1022-2s-1以上)、イオンビームによる実験結果が、実際の核融合炉で適用できるかどうかは明らかではありませんでした。そこで、我々の研究グループでは、従来より2桁高いフラックスのビームを発生することが可能な装置を製作し、材料への照射実験を行っています。
2.定常高粒子束ビーム装置 HiFIT (High Flux Irradiation Test device)
図2 装置概略図


     図3 イオン源、電極付近の写真
この装置では、高粒子束のビームを発生させるために、大面積から引き出したイオンビームを球面電極によって幾何学的に集束させ、試料表面に照射しています。3枚の多孔型(孔の総数 638個)球面電極は、中間の電極に高電圧を印加することが出来、低エネルギーでも高粒子束のイオンビームを引き出すことができます。このように大面積のイオンビーム装置を利用した実験は他にも行われていますが、我々のようなビームを集束して高粒子束を達成するビーム装置を用いた照射実験は他には行われていません。

イオンビーム源には、2.45GHzのマイクロ波によるECR放電によってイオンを生成するECRイオン源を用いています。ECRイオン源を用いる事により、不純物(主に酸素)が極めて少ないプラズマを長時間(定常的に)生成する事が可能です。また、放電ガスの選択の制限もありません。


電極から引き出したイオンビームは、照射チャンバー内のFocalPointにて試料に照射されます。

装置後方には偏向磁場走査型質量分析器を設置しています。引き出されたビーム中のイオンは、ここで質量を選択されFaradyCupにてイオン電流として検出されます。




図4 照射チャンバー付近の写真 
HiFITのパラメータと、ITERで想定されている環境を比較してみましょう。
定常高粒子束ビーム装置 HiFIT  国際熱核融合実験炉 ITER (想定値)
ブランケット第一壁 ダイバータ板
粒子負荷 イオンビーム

(粒子束: 3.5×1021/m2s 
 エネルギー 3keV 時)

(粒子束; 4.0×1020/m2s
 エネルギー 300eV時)
高速中性粒子

(粒子束: 〜1021/m2s、
エネルギー: 約100eV以上)

イオン

(粒子束: 〜1018/m2s、
エネルギー: 数10〜約100eV)

〔D,T,He,不純物〕
多価イオンはエネルギーが高い
イオン 〔D,T,He,不純物〕

(粒子束: 〜1024/m2s、
エネルギー: 数eV程度以下)
この様にビームエネルギーや粒子束においては、実際の核融合炉の環境下に近い条件をほぼ満たしているといえます。
3. 研究成果 〜どんな結果が得られたの?〜
現在、主に行っているプラズマ・壁相互作用に関する研究の一例を紹介していきましょう。
前述で述べましたが、核融合炉の壁材料に適した材料はまだはっきりとはわかっておらず、あらゆる条件から様々な評価を行う必要性があります。候補材料である炭素材(低原子番号材料)とタングステン(高原子番号材料)は、それぞれプラズマ・壁相互作用の研究を通して評価されてきました。しかし、次期核融合実験炉であるITERを代表として今、低原子番号材料と高原子番号材料が同時に使用される例が想定されるようになってきています。こういった状況下では単に表面が損耗されるだけでなく、はじき出された低原子番号材料と高原子番号材料の原子が再堆積する過程で交じり合い大変複雑な状態になります。プラズマ・壁相互作用の研究として今後精力的に研究を進める必要があります。

 我々の研究では、高原子番号材料であるタングステンに不純物として炭素を含んだ水素・炭素混合イオンビームを照射しています。
照射を行った後のタングステン試料の表面の写真を下記に示します。


図5  照射後のタングステン試料表面(a)   


照射後のタングステン試料表面(b)
写真(a)では何やらブツブツができていますよね。
これは
ブリスタリングと呼ばれるもので、タングステンの表面が盛り上がってこのようになると考えられています。
このブリスタリングの形成は、低原子番号材料と高原子番号材料に関するプラズマ・壁相互作用の研究の観点からも重要な要素です。
では、写真(b)を見てみましょう。こちらでは、写真(a)のようなブリスタリングは見られません。
表面の様子は照射を行う前とほぼ同じといえるでしょう。

しかし、この二つの試料は、実はイオンエネルギー(1keV)、照射量(fluence: 7×1024m-2)、試料の温度(875K)というほぼ同じ条件で照射したものなのです。なぜ写真(a)と写真(b)でこんなに結果が異なるのでしょうか?

その理由は、イオンビーム中に含まれた炭素不純物の量が関係していると考えられます。
写真(a)では、炭素不純物の割合は0.95%のイオンビームで照射しました。
それに対して写真(b)では、炭素不純物の量が0.11%のイオンビームで照射しています。

つまり、
イオンビーム中の炭素不純物量が多くなるとブリスタリングが形成されやすいと考えられる訳ですね。

ただ、ブリスタリングの形成がそれだけで決まるとは断定できません。
炭素不純物量が多くなりすぎる場合では、タングステン表面に再堆積による炭素の層が形成されブリスタリングが形成されにくい事が実験結果からわかっています。また実験条件(照射量、イオンエネルギー、試料温度、イオンの種類など)によってブリスタリングの形状・数は変化しますし、ブリスタリングの生成が核融合炉環境にどのように影響を与えるのか?炭素不純物が多いと何故ブリスタリングが形成されやすくなるのか?といったメカニズムもはっきりとはわかっていません。

そういった事は今後、より精力的に研究を行っていく必要があります。

研究内容についてもっと詳しく知りたい方はこちらへ →  

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