ペブルダイバータシステムの研究


ここでは、本講座における研究テーマのひとつであり、我々が世界に向けて提案している新プラズマ対向壁概念、『ペブルダイバータシステム』について紹介します。「そもそも核融合って何?ダイバータって何?」という方は、ここを読む前に、イントロページである『なっとく!核融合』へGO!



1. 核融合炉内の過酷な環境

 核融合反応を起こすには、超高温のプラズマ状態を維持しなければなりません(真空容器の中心の、最も温度が高い場所では、なんと数億度!)。そのため真空容器の内壁は、プラズマから漏れ出てくる高エネルギー粒子にさらされることになり、壁材料が削れたり、変形したり…といった大変困った事態が生じてしまいます。特にダイバータ領域にはこのような熱負荷、粒子負荷が集中するため、「炉を作ったとしても、せいぜい数年も使えばダイバータ板は削れて無くなってしまう」なんていう意見もあります。
 「削れてきたら運転を止めて交換すればいいじゃないか」と思われるかもしれませんが、交換には相当の日数とお金がかかってしまいますし、そんな長い期間、運転を止めてたら、発電プラントとして成り立ちませんよね。それでは、炉の運転を継続しながら、ダイバータ板を常に健全な状態に保つには、どうすればよいのでしょうか。このような疑問に対する回答として考案されたのが、ペブルダイバータシステムなのです。


2. ペブルダイバータ

 では、いよいよペブルダイバータの説明に入っていきましょう。まずは下の図をみてください。



 これはペブルダイバータのシステム概略図です。図のように、ダイバータ領域において、磁力線に交差するように大量の小球(直径1-2mm。以降ペブルと呼びます)をカーテン状に落下させます。これにより、ダイバータ板に衝突するはずだったプラズマ粒子は、ほとんどが(あるいは全てが)ペブルカーテンに受け止められることになります。落下したペブルは回収され、落下装置に運ばれて再び落下、というサイクルを繰り返します。このようにペブルを循環させ、ペブルカーテンが途切れないようにすることで、ダイバータ板をダメージから守ろうというわけです。
 もちろん、ダイバータ板のかわりにペブルが削れてしまいますが、ペブル回収後に削れてしまったものだけを選択的に除去し、その都度新ペブルを供給するようにすれば、常にペブルカーテンを健全な状態に保つことができると考えています。



3. ペブルダイバータの排気機能

 ペブルダイバータの利点は、損耗に関することだけではありません。ここでは、もうひとつの特徴である、排気機能について説明したいと思います。
 『なっとく!核融合』でも触れたように、ダイバータ領域に流れ込んでくる様々なイオン(未反応燃料イオン、核融合反応の燃えカスであるヘリウム灰、そしてその他の不純物)は、そのままにしておくと中心部に逆流してプラズマを冷却する危険性があります。よって炉外に排気する必要があるわけですが、この排気を、ペブルダイバータによって行うことができるのです。
 

 では、排気のプロセスを説明しましょう。まずペブルカーテンに入射したプラズマ粒子は、衝突して反射するか、ペブル内に埋め込まれて内部に留まります。これを吸蔵と言います(吸蔵に関しては、『なっとく!核融合』でも触れています)。

 ペブルは粒子を吸蔵したまま落下し、回収されて一箇所に集められ、加熱されます(この場所を脱ガス領域と呼びます)。そうすると、吸蔵されていた粒子がエネルギーをもらってペブルの外に飛び出てきます。これを真空ポンプで吸うことで、粒子を炉外に運ぶことができるのです。
加熱されて粒子を吐き出したペブルは、熱交換機で冷却され、再び落下装置へ運ばれます。この流れ全体を図で表すと、下のようになります。




4. 多層被覆ペブル

ペブルダイバータシステムに用いるペブルは、プラズマ粒子照射によっても損耗や破壊を起こすことがなく、またよりたくさんの粒子を吸蔵する性質を持っていることが理想ですが、これらの要求を、ひとつの材料で満たすことは困難です。そこで、我々は図のような多層構造のペブルを用いることを考えています。

 
 第1層は、プラズマに直接触れる部分ですので、より削られにくい、あるいは削られてコアプラズマに逆流することがあっても、プラズマに与える悪影響が少ない材料がよいでしょう。現時点では、黒鉛が第一候補です。
 第2層はトリチウム不透過層です。放射性物質であるトリチウムの蓄積量を減らすことが目的です。現時点ではCVDと呼ばれる方法でSiCコーティングをほどこすことを考えています。
 第3層はペブルの体積のほとんどを占める部分で、ペブルの機械的強度(壊れやすさ)を決定する部分です。現時点ではSiCか黒鉛を考えています。

5.検討課題
ここまでで、『何て素晴らしいシステムだろう』と思っていただけたでしょう。しかしまだまだ研究途上のシステムなので、わからないことや問題点もいくつもあります。

そのような中で私たちは一日も早いペブルダイバータシステムの実現化のために、以下のような研究並びに、実験を行ってきました。


T. 多層被覆ぺブルの表面層第一候補材料である黒鉛に粒子ビームを照射して、損耗具合を調べました。
U. ぺブルダイバータの排気能力はどれほどかを調べました。
V. ぺブルによるプラズマの遮蔽を考えるため、実際にぺブルがどのように落下するのか?また、そのときぺブルにはいったいどのくらいの熱が入ってくるのかを調べした。


6.ペブルの健全性に関する研究
 ペブルダイバータに用いられる多層被覆ペブルは、プラズマからの強い熱負荷、粒子負荷にさらされるため、ペブルの表面が削られてしまいます。また急激な温度上昇が起こるため、ペブルが蒸発、あるいは亀裂が入ったり割れたりする可能性もあります。よって、これらの現象について調べることは、ペブルダイバータの成立条件を考える上で、必須項目であると思われます。ここでは、現在までに行われた、ペブルの健全性に関する研究について書きます。

 まず、損耗特性についてですが、これは表面層材料と照射時間に大きく依存します。現時点での設計では、落下装置の下方1m地点に照射領域があり、照射領域の長さは10cmとしています(下図参照)。ペブルは真空中を自由落下すると考えれば一回の落下での照射時間は約26msecと非常に短くなります。よって、一回の照射での損耗はそれほど大きなものにはならないはずです。しかし一方で、表面層候補材料である黒鉛は、熱伝導性や耐熱性には優れますが低原子番号のため損耗されやすいという欠点を持っています。


 
そこで我々は、アーク放電を用いてプラズマを生成するイオン源装置を用いて、ビーム照射実験を行い、ペブルの損耗特性を調べてみました。その結果、異常な損耗などは起こらず、交換までに数百回の落下サイクルに耐えられること可能性があることがわかりました。

 次に熱負荷特性ですが、これはペブルの大きさとカーネル材料、そして照射時間に大きく依存します。ここで、熱応力というものについて簡単に説明しましょう。
 照射による温度上昇は、表面から中心に近づくにつれて小さくなるため、照射直後のペブルは径方向に温度分布を持ちます。物質は温度が上がると膨張しますから、温度分布があるということは、ペブルの表面付近と中心付近では膨張の度合いが違うということです。この膨張度の違いによって発生する力を熱応力といいます。ペブルの健全性を表面で破壊が発生しないこととすれば、表面での熱応力が材料の強度を超えないようにしなければなりません。そこで我々は、ペブルの表面熱応力を計算によって求めてみました。
 図は、ペブルの表面熱応力のペブル直径依存性を、カーネルの候補材料であるSiC、黒鉛それぞれについて計算したものです。照射領域の長さを10cm、位置を落下装置から1m下として、照射時間を26msecとしました。また熱負荷は、30MW/m2としました。

黒鉛の場合                     SiCの場合
 これによると、ペブルが大きくなればなるほどペブルの表面熱応力も大きくなります。よって応力破壊の観点からはペブルはできるだけ小さいことが望ましいと言えます。しかし、これだけで「ペブルは小さいほど良い」と短絡的に決めるわけにはいきません。ペブルの排気特性実験(後述)からは、ペブルの排気能力は照射時温度依存性を持つことがわかっているからです。ペブルが小さくしていくと熱容量も小さくなるため、、温度上昇は大きくなります。
 図は、ペブルの温度上昇のペブル直径依存性を計算したものです。ペブルの初期温度は500Kとしました。その他の計算条件は熱応力のときと同じです。
 結局、ペブルの大きさは、熱応力と温度上昇のふたつの観点から最適化することで決定されることになります。現時点では黒鉛カーネルなら直径1.2mm、SiCカーネルなら1.2mmが最適という結果が出ていますが、排気特性実験のデータが出揃っていないため、あくまで現段階での数値でしかありません。
6.ぺブルダイバータの排気プロセス実験
ペブルダイバータシステムではペブルの表層材料に炭素材を用いることで、ダイバータ部に流れ込んでくる燃料ガス、及びヘリウム灰を吸蔵し、その外部で脱離させることでそれらを排気することができます。今回は水素を例に挙げて排気プロセスについて説明したいと思います。下図はぺブルダイバータシステムの装置図と各領域を通過する際のペブルの表面温度とペブル中の水素吸蔵量を通過時間の関数として表したグラフです。



ペブルの表面温度に関して、プラズマからの熱負荷により到達した温度を照射時最高温度、脱ガス領域におけるペブルの保持温度を脱ガス温度と定義します。ペブルの水素吸蔵量に関しては、ペブルが脱ガス領域に達したときの表面層中の水素吸蔵量を過渡水素吸蔵量、脱ガス領域の出口において残っている量を残留水素吸蔵量を定義します。
 そして、ペブルダイバータの排気能力は過渡水素吸蔵量と残留水素吸蔵量の差で得られます。また、私たちのグループでは、水素だけでなくヘリウムに関する排気についても研究を行っています。

7.ペブル落下実験

7.1 何のために実験したの?
さて、ここまできて、おそらくみなさんは、次のような点に疑問を持ったのではないでしょうか。

理由@:
ダイバータ板にやってくる熱負荷、粒子負荷はどれくらいの大きさで、ペブルによって
 その内の何%を受け止める必要があるの?
理由A: また、そのためには単位時間あたりどれくらいの数のペブルを落とす必要があるの?
理由B: そもそも、落下装置はどういう形状なの?

このことには私たちも同様に疑問を持ちました。そこでこれらの疑問を解決するために落下装置をつくって実際にペブルを落として実験してみたのです。

7.2 どんな実験をしたの?
 <装置写真1>落下制御装置の外観 この写真は、我々が製作したペブル落下実験装置です。装置の一番下の底面にはスリット口が設けてあります。このときの装置全体の重量変化を測定し、ペブルの流量を求めます。
写真2は、落下中のペブルを正面から写真撮影したものです。この写真を解析することで遮蔽率を求めます。ちなみに落下実験に際しては、実験用ペブルとしてアルミナペブルと活性炭ペブルの2種類を用いました。  
<装置写真2>実際にペブルを落下させているところ
7.3 何がわかったの?
アルミナ、活性炭の両方で、計算値と測定値がよく一致しており、計算プログラムが妥当なものであることがわかりました。また、ペブルの流量や遮蔽率は、排出口の形、面積に大きく依存し、貯蔵容器の形状にはあまり依存しないことがわかりました。将来、落下装置を本格的に開発する際にも、このプログラムを用いる予定です。
また、試しにこのプログラムに、試作多層被覆粒子の物性値を入力してみたところ、90%の遮蔽率を得るために必要なスリット幅は2.5cm、そのときのペブル流量は、トロイダル方向1mあたり30kg/sec、という結果が出ました。これにより、炉内に十分問題なく設置できる可能性があることがわかりました。


8.今後の予定・課題
ペブルにプラズマを照射した場合、どのような相互作用が起きるのか?を詳しく調べることは、ペブルによるプラズマの遮蔽を評価する際にとても大切なことだと考えています。現在、ペブルとプラズマの相互作用として、次の事象を調べるための実験を予定しています。
  プラズマを通さないようにするには、どれくらいのペブルを落下させて、どのくらいの厚さのペブルフローを形成しないといけないのか?
  ペブルにはどれくらいの熱が入ってくるのか?

このことは将来の定常核融合炉環境下でのダイバータプラズマのペブルフローによる遮蔽への効果の評価についても適用が可能であると考えています。
 このような実験に加えて、落下してきたペブルをどうやって脱ガス領域まで導くか、ペブルの輸送方法、加熱されたペブルの冷却法、そして損耗したペブルを取り除き、換わりに新しいペブルを追加する機構など、実際にペブルダイバータシステムが使用されるために必要な周りの実験装置の研究・開発も行っきたいと考えています。



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