1−1 重水素/ヘリウム混合イオン照射下でのタングステン中の重水素透過挙動の研究
目的
核融合科学研究とその技術研究の目的は核融合反応を利用してエネルギーを発生させることです。
最も有望な反応はD-T反応と呼ばれる重水素とトリチウムの反応です。この反応ではエネルギーと中性子とヘリウムが
放出されます。
放出されたヘリウムは、核融合装置や核融合炉の壁と相互作用します。高温材料であるタングステンは壁材料の候補の一つです。私たちは、様々なタングステンの特性へのヘリウムの影響を研究しています。
図1:D-T反応
一般的に、ヘリウムは材料の特性に悪影響を与えます。例えば、タングステン中のヘリウムはバブルを作り、タングステン材料にダメージを与えます。(図2)
この研究では、ヘリウムの影響がどのようにタングステン中の水素同位体の挙動を変化させるのかを調べています。トリチウムは放射性同位体なので、水素の挙動を理解することは重要です。この研究は核融合装置や核融合炉の安全運転の実現につながります。
図2:タングステ中のヘリウムバブル
研究方法
実験では重水素の輸送を透過実験により測定しています。(図3)透過信号は表面と内部の特性に対して非常に敏感です。そのためヘリウム照射時に重水素の挙動がどのように変化するのかを調べています。また、様々な表面解析技術を用いて更なる計測を行っています。マックスプランク研究所(ドイツ)との共同研究では表面中(約50 nm)の水素、重水素、ヘリウムを同時に検出する実験を行っています。
図3:透過実験の概念図 図4:透過実験装置
研究成果
ヘリウムはタングステン中の重水素の拡散を大きく変化させます。(図5) 拡散は重水素がどこまで材料中を透過できるかを決定するのでとても重要です。この拡散と透過を制御することは、核融合炉の安全と運転の為に必要です。 得られた実験データに対してモデリングを行うことで様々なパラメータを特定することができます。
このようなパラメータは基礎科学と工学にとって有用です。例えば、六個一つのヘリウム原子は 六個一つの水素原子を捕獲します。(図6) このような情報は材料科学における最先端のコンピュータシミュレーションにおいて、実験結果との比較を可能にします。工学面では実験的に求められたパラメータは核融合炉内のトリチウムの挙動のモデリングに利用されます。