シミュレーションによる核融合炉壁材料中のトリチウム蓄積量評価

 

n  背景

 国際プロジェクトITERでは炉内トリチウムの制限量が700 gと定められている。ITERの装置全体でのトリチウム制限量は、事故でトリチウムが環境に放出しても住民が避難しなくてすむ量として決められている。

 本研究テーマでは、シミュレーションを用いて炉壁内のトリチウム蓄積量を見積もることで、ITERの安全性に貢献することが目的である。材料中のトリチウムの挙動を解明できれば、トリチウム蓄積量を簡単に計算できる。その挙動を調べるために,1−1~1−6のような様々な研究がなされている。

 本研究においては,シミュレーションのパラメータは実験から得られたデータをもとに調査を行っている。シミュレーションでは、拡散方程式を用いて材料中の粒子の拡散挙動を計算している。ここで、拡散係数や表面再結合係数を決めるために、1-1や1-2の実験データをベンチマークとして使用する。一例を図1に示す。図1ではパラメータの一つである表面再結合係数の調査の例である。最終的に、トリチウムの蓄積量を評価するには、様々なパラメータ(拡散パラメータ、放出パラメータ、トラッピングパラメータなど)を決める必要がある。そういったパラメータを先ずベンチマーク実験結果とシミュレーション結果から評価し、最後にトリチウム蓄積量の計算を行う。

 

n  結果

 ヘリウムと重水素の同時照射の透過実験データをベンチマークして、拡散パラメータを決めることにより複雑環境下(トリチウムとヘリウムが同時に照射される環境下)でのトリチウム蓄積量評価を行った結果を示す。重水素とトリチウムが照射される場合のトリチウム蓄積量は、ヘリウムとが同時照射されると、約5倍減少することが分かった。

 

1 (a) 重水素のみの透過実験の定常透過フラックの温度依存性。黒丸が実験データ。実線は表面再結合係数を実験データに合うように調整を行って得られたもの。(b)表面再結合係数の温度依存性を示している。実線は図1(a)の実線と対応している。

2  ITER条件での複雑環境下でのトリチウム蓄積量の評価