4−2 窒化アルミ膜の超音波素子への応用研究

  本研究では、上田研究室で運用されているプラズマ装置と動作ガス運転状況が異なり、比較的高圧条件下でのプラズマプロセスを実施しています。動作ガス圧の条件は、0.1torr〜760torrまでの範囲です。マグネトロンスパッタリング装置など低圧プラズマ装置は、0.01torr程度が動作ガス圧となります。このガス圧では、単位体積あたりの粒子(分子など)の数が少なめであるので、イオン化した粒子がターゲットへ到達するまでに物理スパッタリングが生じる程度のエネルギーが得られます。しかし、本研究で使用する装置は、動作ガス圧がそれ以上であることから、ガス圧が高まるとともに物理スパッタリングが起きにくくなり、次第に表面での化学気相反応が主な反応過程となります。

Al N film

 高気圧プラズマ装置の概略図

  上の図に実験装置図の概要を示します。真空装置内でプラズマを発生させるために、装置内に残留している空気を高真空に対応したターボポンプで一度排気をします。高真空に達した時点でバルブを閉じて、電極や基板ホルダーがある装置側にヘリウム(He)、窒素(N2)、水素(H2)などを流量計を介してリザーバーで混合し、真空装置内に導入します。電極と基板ホルダーの間の距離は電極が可動式のため調整ができ、適当な距離を保って100MHzの高周波電源で電力を入力して放電を発生させることができます。

Al N film

 電極間距離とプラズマ発光の関係
左:1 torr、中:80 torr、右:600 torr

  では、動作ガス圧に対する放電の様子を見てみましょう。上の図は室温でHeガスを真空装置内に入れ、200Wの電力を投入したときのプラズマ発光の様子を示しています。動作ガス圧が高くなるにつれて、電極と基板ホルダー間の距離は短くなり、全体的に広がっていたプラズマが電極と基板ホルダー間にのみ局在していることがわかります。

本装置を利用した窒化アルミ膜の超音波素子への応用研究について簡単に述べます。別途資料(5-1)にあるように、超音波素子は導電層と絶縁層を多層に重ねて構成されます。その絶縁層の材料に高熱伝導性、高絶縁性をもつ窒化アルミに注目しました。窒化アルミ膜の成膜方法として、アルミ膜を高気圧プラズマの基板ホルダーに取り付け、HeガスとN2ガスを混合させ10torrの動作圧力でアルミ膜の表面状態の変化を調べました。10torrの動作ガス圧では、物理スパッタリングは生じにくく、表面での化学反応が支配的であると考えられます。試料であるアルミ膜は成膜した後、一度大気中に取り出しています。大気は約80%が窒素、20%が酸素ですが、アルミニウムは酸素と結合力が強く、表面は窒素と結合せず酸化アルミを形成してしまいます。Fig.3.に基板温度を変化させたときのアルミ膜の表面状態を示します。一部表面酸化したアルミ膜を加熱しプラズマにさらしたところ、基板温度が200℃まではアルミ膜成膜後の状態と変化は見られませんでしたが、400℃まで温度を上げると表面状態は大きく変化し、小さい白い突起物が表面にできました。X線回折結果では白い突起物はALNの結晶核であることがわかりました。動作ガス圧と基板温度が表面に生じる結晶構造に影響を与えていると考えられます。このように、表面気相反応を用いてアルミ膜から結合力の強い酸素原子を脱離させ窒素と置換できた成功例と言えます。

 ご関心のある方は、
Temperature dependence for nitridation of aluminum films by sub-atmospheric pressure discharge, A. Saikubo, Y. Ohtsuka and Y. Ueda, Journal of Physics: Conference Series 379 (2012) 012032 6pp
をご参照ください。

Al N film

 He/N2混合プラズマでアルミ膜を窒化処理した表面状態異