1−2 重水素/炭素混合イオン照射下での
タングステン中の重水素透過挙動の研究

研究背景と研究目的

 磁場閉じ込め核融合実証炉において、タングステンはプラズマ対向材料の有力な候補として挙げられており、ITERという核融合実験炉のダイバータにも使用されます。水素同位体(軽水素、重水素、三重水素)の照射下でタングステン中の水素蓄積は他の材料と比べて低いですが、水素がタングステン材料の表面から入り、裏側の冷却部分に拡散します。この水素拡散は水素の燃料注入率や壁材料中の水素蓄積・透過に給与し、核融合炉の運転サイクルに影響を与えます。また、三重水素は放射性物質であるため、この水素の拡散は核融合炉の安全性にも影響を及ぼします。したがって、タングステン材料中の重水素拡散挙動を解明することが重要で、タングステン材料中の重水素透過実験で評価することができます。

 ITERにおいては、タングステンの他に炭素材料(CFC)もプラズマ対向材料として使用されます。しかし、材料の損耗・輸送・最堆積により核融合炉の中で炭素不純物が生成され、炭素不純物イオンが水素同位体イオンと同時にタングステン材料に入射します。これにより、タングステンと炭素の混合材が生成し、材料表面付近の特性が変化します。過去には、純タングステンまたは炭素膜で被覆されたタングステンに対して、重水素照射下での透過実験しか行われていません。そのため、この研究においては、タングステン材料に重水素と炭素を同時に照射することで、同時照射環境におけるタングステン中の重水素透過を実験的に求め、炭素の存在がタングステン材料中の水素拡散に対する影響を解明したいと考えています。

実験手法

D+C Permeation

 重水素透過実験をするには、大阪大学上田研究室にある定常高粒子束混合イオンビーム照射装置(HiFIT)が使用されます。チャンバーに重水素ガスと炭素板を導入し、電子サイクロトロン共鳴法(ECR)により生成した重水素・炭素の混合プラズマから、電極を用いてイオンビームを引き出して薄いタングステン試料に照射します。この研究で使われる試料の厚さは30〜75μmです。そして、イオンビームのエネルギーは300eV〜1keVで、イオンのフラックスは1019〜1020m-2s-1です。タングステン試料から透過された重水素ガスを四重極質量分析器(QMS)で測定し、タングステン中の重水素透過を分析します。また、照射下タングステン試料を走査型電子顕微鏡(SEM)で試料の表面を観察し、X線電子分光分析(XPS)で試料表面の原子組成を分析します。

研究成果

D+C Permeation

D+C Permeation

 重水素と炭素を同時にタングステンに照射すると、重水素のみの照射と比べて、定常状態における重水素透過フラックスが増加し、炭素の存在がタングステン中の重水素透過を促進することがわかりました。その促進効果は試料温度に強く依存し、重水素透過フラックスは温度700K付近では最大となり、重水素のみの照射と比べて2桁大きくなります。炭素が重水素とともにタングステンに入射すると、タングステン表面にタングステンと炭素の混合層が形成され、重水素の入射側表面への放出が抑制されます。そのため、タングステン材料中における重水素濃度が高くなり、透過側における大きな重水素の濃度勾配により、透過側表面から放出される重水素の量が増えると考えられます。

研究業績

Ion-driven permeation of deuterium in tungsten by deuterium and carbon-mixed ion irradiation
(H Y Peng et al 2011 Phys. Scr. 2011 014046)