1−3 先進タングステン材料中の水素同位体蓄積の研究

W(タングステン)材料中の水素同位体蓄積

  核融合炉の壁材料としてWが用いられる。運転中、Wはプラズマに曝されている状態にあるので、プラズマの粒子(重水素(D)やトリチウム(T))がW中に蓄積され得る。本研究室では、炉壁に入射するプラズマ粒子を模擬した、定常高粒子束イオンビーム照射装置(HiFIT)で重水素イオンをWに注入し、W中の蓄積量を測定している。

TFGRW

 Wに注入されたDイオンはW中を拡散し、内部にトラップされる。
このプロセスを巨視的にみれば、WがDを蓄積している。

先進タングステン材料

TFGRW

  Wの欠点の一つとして、その脆さが挙げられる。核融合炉の壁材料としての使用を考えて、脆さを分類すると、
・ 低温脆性 (そもそも常温で延展性を示さない)
・ 再結晶脆性 (高温になると結晶構造が変化して、脆くなる)
・ 照射脆性 (中性子やプラズマ粒子に曝されると、さらに脆くなる)
以上の3つに分けられる。壁材料が脆性を持つと、炉の損傷ひいては破壊につながる。そのため、Wを壁材料として用いるには、上記の脆性が問題視されている。

 Wの脆性を克服するために、材料強度の高いW材料が研究開発されてきた。その中の一つに、TFGR W(Toughened, Fine-Grained Recrystallized Tungsten)が挙げられる。このTFGR Wは、東北大学の栗下先生によって研究開発された。脆性の改善のためにWの微細構造に着目し、結晶構造を変化させることで材料強度の向上に成功した。具体的には、
@ 微結晶化(結晶粒を小さくする) ⇒ 強度が上昇(ホール・ペッチの関係)
A 添加物(TiCやTaC)の存在 ⇒ 結晶粒界が強化
ということが挙げられる。

材料評価

 TFGR Wは強度が高いことが分かっているが、実際に核融合炉壁として用いるには、プラズマからの熱負荷や粒子負荷への耐性など、他の観点での材料評価も必要である。このことを踏まえ、本研究室では、TFGR Wの水素同位体蓄積を研究している。

 TFGR Wにおける水素同位体蓄積量は、純Wよりも多いという結果が得られている。これは、先に挙げたTFGR Wの特徴である、微結晶性と添加物が影響しているものと思われる。

TFGRW