5−1 高温で動作する電磁超音波素子の開発

high temp ultrasonic

 電流駆動電磁超音波素子

 超音波素子は高温(ここでは500℃以上)の環境で使えるものはほとんどありません。保全分野における超音波は、装置重要部分にき裂や内壁が削れる減肉が生じていないか調べるために使われるわけですが、高温では使用が困難なため定期検査時の装置が冷却しているときに検査するのが一般的です。しかし、重大な事故につながることを未然に防ぐためには定期点検に加えて、装置が運転中においても監視できるシステムを構築することが、安全・信頼性の向上に不可欠です。

 本研究では、高温で動作する電磁超音波素子を開発して、装置が高温時でも超音波探傷できる環境を整えることを目指しています。では、電磁超音波素子の構造を見ていきましょう。上の図をご覧ください。

 電磁超音波探触子は、励磁をするための磁石と、高周波を流し調べたい対象物に渦電流を生じさせるコイルから構成されています。磁石とコイルの組み合わせによって、縦波や横波となる超音波が発生します。温度に対する難点は、磁石が高温になると磁力を失ってしまうことがあげられます。ですから、室温ではネオジウム系の磁石を使用する一方、250℃程度の温度ではサマリウム系の磁石を用います。さらに高温になると磁石では水冷が必要になったりしてシステムが複雑になってきます。そこで、上の図のような電流駆動電磁超音波素子を考案しました。主な変更点は、磁石を使わず電流回路を構成しているところです。超音波を発生するときのみ数100Aとなる大電流を流して励磁し、磁石を用いたとき以上に強い超音波を発生させる。この点が認められ、特許第4734522号(電磁超音波探触子)が成立しています。

 下の図は電流駆動電磁超音波素子への印加電圧に対する出力の変化を表しています。実験は室温で行われ、縦軸は磁石を用いた電磁超音波探触子の出力強度に対する電流駆動超音波素子の出力強度比となっています。励磁コイルについては4層まで多層化した結果を示しています。ここで、多層化とは励磁コイルの上に絶縁層を挿入しさらに励磁コイルを重ねていくことをさしています。この図から多層化をすることによって磁石を用いた電磁超音波探触子以上の出力が可能であることを示すことができました。

 現在は、励磁コイル形状を工夫しながら多層化と550℃の高温でも室温程度の超音波出力が得られるよう4−2の絶縁方法と組み合わせながら試行錯誤して最適な条件を検証しています。また、超音波の受信に対する検討を併せて実施しており、電流駆動超音波素子による超音波の送受信を目指しています。

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 多層化した電流駆動超音波素子の出力変化