5−2 電磁超音波を用いた非破壊検査の研究

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 電磁超音波探触子の構造

 電磁超音波法は、電磁超音波探触子という超音波発生/受信探触子を使用します。上の図に電磁超音波探触子の構造を示します。磁石とコイルから構成されており、この図ではコイルに流す高周波電流で生じる材料表面の渦電流と磁場との相互作用によってローレンツ力が発生し超音波を誘起します。電磁超音波法は、測定対象物が導電性であることが条件である一方、直接測定対象物表面に超音波を誘起するので、電磁超音波探触子と測定対象物の間に超音波の伝播を効率的にするグリスを塗布する必要がありません。そのため、グリスを使用する圧電素子による超音波とは異なり、同じ場所に電磁超音波探触子を設置すると受信する超音波波形に大きな違いがないという特徴があります。この点に注目すると熱時効によって材料が劣化し硬くなります。そのことにより超音波の音速に微少な変化が生じます。電磁超音波法は再現性の良い超音波波形が得られる特徴を生かして音速の微少変化を捉えることに成功し、超音波による非破壊検査で熱時効の影響を調べられることを示しました。

 超音波の欠陥評価法は多数ありますが、その中で電磁超音波探触子を2つ使い、送信器と受信器の間で多数の伝播経路を通った超音波信号で欠陥の大きさを評価する方法を示します。比較的薄い板だと表面ラム波や測定対象物を多重反射して受信器に超音波が到達します。これらの超音波は異なる伝播経路で受信器に到達しているため、超音波が伝播する経路上にある様々な情報が含まれていると考えられます。この下の図にに多重反射した超音波受信波形を示します。45μsまでの超音波波形は様々な経路を伝播した超音波が同時に受信されたため波形分離は困難ですが、45μs以降は経路ごとに受信波形が分離されていることがわかります。このような受信波形を送信器と受信器の距離を変えて多数の超音波波形を受信してみると、超音波の伝播経路上に欠陥がないときは受信強度に変化は生じませんが、欠陥がある位置を通過したときはその度合いによって受信強度に変化が生じます。

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 測定対象物中を多重反射して受信された超音波波形

 各経路ごとに超音波の受信強度を調べ、測定対象物の板厚、電磁超音波探触子の大きさ、送受信間の距離、多重反射した回数をもとにして伝播経路にある欠陥の深さを評価してみました。その結果を下の図に示します。横軸のXは超音波の伝播方向と関連があるパラメータ、縦軸のYは超音波の受信強度の最小値となる送受信間距離と受信強度が最大となる送受信間距離に関連するパラメータであり、dy/dxが欠陥の深さを表す値となります。1つの超音波データでは欠陥深さの評価に誤差が多く含まれますが、異なる伝播経路を通る超音波の情報を多数処理することによって、欠陥の深さを求める精度を向上させることができ、本結果では3mm深さのき裂に対して、3.2mmと10%以下の精度で欠陥深さの評価ができました。

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 欠陥深さ3mmに対する深さ評価