2022年の米国ローレンスリバモア研究所の国立点火施設(NIF)での実験において、投入したレーザーエネルギー以上のフュージョンエネルギーを得る「エネルギー純増」が報告されて以来、米国のみならず世界でフュージョンエネルギー利用の機運が高まっています。しかし電力からレーザー、あるいは熱エネルギーから電力へのエネルギー変換効率を考慮すると、将来的な発電のためには現状の10倍以上のエネルギー利得(ゲイン)が必要となります。そのため、高い利得が期待できる高速点火方式のレーザー核融合研究を進めており、特に核融合燃料となる高密度プラズマに直接高強度レーザーを照射し、高輝度量子ビームが燃料を効率よく加熱する手法の研究を進めています。
NIFでの実験では、中心点火と呼ばれる燃料点火方式が用いられています。レーザー核融合では、中空シェルと呼ばれる直径数ミリメートルの中空の球の中に核融合燃料を封じ込め、数メガジュールのエネルギーを持つパワーレーザーを球に照射し、熱圧力により燃料を球対称に圧縮し、中心で衝突させることで恒星内部にような高温高密度状態を作り出します。最終的に点火可能な高温高密度状態を作り出すためには、燃料の運動エネルギーを十分大きくして衝突させる必要がありますが、あまりにも大きい(高速で圧縮させる)と流体不安定性が成長し、内部エネルギーへの変換が阻害されます。このため、中心点火方式では大きな利得が取りにくいとされています。
一方、高速点火と呼ばれる方式は、圧縮と加熱の工程を分離することで高温状態を維持しつつ圧縮する必要がなく、結果レーザーエネルギーが抑制され、高い利得が可能となります。しかし高速点火にも課題があります。レーザー核融合の燃料の密度は固体密度の1000倍程度で、大きさは百ミクロン程度ですが、その周りには指数関数的に密度が減少する長尺プラズマが広がっています。高速点火では高強度レーザーで生成する高電流量子ビームを使って燃料を加熱しますが、レーザーは不透明な固体中を伝搬できないように、臨界密度と呼ばれる密度以上のプラズマ中は伝搬することができず、中心から1mm以上離れた遠距離で量子ビームを生成しなければなりません。そのため、高速点火では如何に効率よく燃料を加熱するかが課題となります。
プラズマ中に高強度レーザーが侵入すると、レーザー電場によって振動する電子の運動エネルギーが静止質量を超えるために様々な相対論効果を生じます。我々が提唱するスーパーペネトレーションとは、この高強度レーザーのプラズマ中での2つの相対論効果、相対論的自己収束現象でレーザーを高強度化し、相対論的異常透過を利用することで燃料のごく近傍までレーザーを伝搬させ、効率的な燃料加熱が可能となります。我々は高強度レーザーの爆縮プラズマ中での安定的な伝搬、相対論的異常透過による超臨界密度プラズマ中での伝搬、燃料加熱を実験的に実証してきました。
爆縮プラズマでは臨界密度面は中心から1mm 程度の位置にありますが、さらにその周りは数ミリメートルコロナプラズマと呼ばれる希薄なプラズマで覆われており、例えば比較的高密度である臨界密度の1/10となる領域まででも数ミリ程度の距離があります。高強度レーザーがこの密度領域を長距離伝搬すると、フィラメント不安定性やホージング不安定性と呼ばれる不安定性が成長し、臨界密度面に到達する前にレーザーエネルギーが散逸してしまう可能性が指摘されていました。
我々は米国ロチェスター大学と国際共同実験を実施し、長スケールプラズマ中における高強度レーザーの伝播の様子を観測しました。高強度レーザーが伝播する方向と垂直に計測用のプローブレーザーを照射し、同心円状のフィルターを通過させることで、プローブ光の屈折角をプラズマの密度に紐づけ、密度分布を明示的に求める手法を開発しました。
このプラズマに高強度レーザーを照射すると、信号面でレーザーが通過した密度領域で同心円構造の崩れを観測しました。その結果、レーザー条件を最適化することで、安定的にミリメートル長のコロナプラズマ中を臨界密度まで伝播させることが可能であることを明らかにしました。この成果は、高速点火レーザー核融合において追加熱レーザーをコアまで効率的かつ安定に伝搬・照射できることを実証したものであり、燃料加熱の達成に向けた極めて重要な前進です。
スーパーペネトレーションでは高強度レーザーが超臨界密度領域に侵入して燃料コアに近づく必要があり、超臨界密度中における伝搬の様子を詳細に調べることが重要な研究課題となります。我々はフランスのエコール・ポリテクニークとの共同実験を行い、新開発した低密度プラスチックフォームターゲットを用いて長さ約300µmの一様な超臨界密度プラズマを生成しました。
このプラズマに高強度レーザーを照射したところ、後方散乱光のスペクトルに強い赤方偏移を観測しました。これは臨界密度以上のプラズマを高強度レーザーがある速度で伝搬していることを示しすもので、超臨界密度プラズマ中を伝播する直接的な証拠です。
この現象を理解するため、高強度レーザーがその強いポンデロモーティブ力でプラズマを押し、それに伴う温度上昇と密度上昇を考慮したレーザー伝搬モデルを構築しました。その理論による伝搬速度と、ドップラーシフトから見積もられる伝搬速度(光速の60%程度)が一致し、また粒子シミュレーションの結果でも、レーザーが超臨界密度プラズマ中をその速度で伝搬することが示されました。この成果は、スーパーペネトレーション方式による燃料コア至近へのレーザーエネルギー直接輸送の実現可能性を初めて強固に立証したものであり、高速点火レーザー核融合の効率を飛躍的に高める重要な指針となります。
大阪大学レーザー科学研究所付属の大型レーザー装置を用い、同研究所及び米国カルフォルニア大学と共同実験を行い、本手法における球状プラスチックターゲットを用いた爆縮プラズマ中に対する加熱の実証実験を行いました。我々は燃料球に少量の銅イオンを添付することで、高速電子が銅イオンと衝突する際に放出する銅特性X線発光強度を計測し、その絶対値から高強度レーザーから高密度プラズマへの加熱効率(エネルギー結合率)を見積もる手法を開発しました[15]。
その結果、最大爆縮時におけるエネルギーが結合率がおよそ1%程度であることが示され、本手法による燃料加熱が実証されました。さらに爆縮プラズマの面密度の向上や、加熱電子ビームの発散角を抑制することで10%以上の加熱効率を実現すること可能であることが示され、高速点火レーザー核融合の実用化を大きく手繰り寄せる結果となりました。
この研究には大型レーザー装置を用いて実験を行うことが必須ですが、このような装置は世界でも数が限られており、実験を行える期間や機会は非常に限定されています。そのため、設定した実験目標を確実に達成できるよう、最適な実験条件(レーザー強度、照射位置、照射タイミングなど)をあらかじめ予測しておくことは極めて重要な課題です。
そこで私たちは、実験で用いる大規模な爆縮プラズマ(固体以上の密度、ミリメートル規模の空間スケール、数十ピコ秒の現象)を取り扱うことができる、新しい粒子シミュレーションコードの開発を進めています。現実的な時間で計算を完了させるために大型スーパーコンピュータを活用し、さらに計算を効率化する超並列化技法として「動的負荷分散手法」を導入しました。その結果、従来の手法に比べて最大10倍という大幅な高速化の実現に成功し、限られた実験機会の価値を最大化するとともに、高速点火レーザー核融合の実証に向けた研究開発のスピードを飛躍的に加速させることが可能となりました。