ナノフォトニクスとは光の波長よりも小さな、ナノメートルサイズの構造を用いて、光を極限まで閉じ込め、あるいは制御することで、光と物質の相互作用をナノスケールで最大化し、従来の光学の限界を超える新奇な物理現象の開拓を目指す学問です。このナノフォトニクスの概念を超高強度光に適応し、高強度光の局所的な電磁場強度の増強と、それによってもたらされる高輝度量子ビームの生成・制御を目指した研究を進めています。
表面プラズモン共鳴(SPR)とは金属表面の自由電子が、入射した光(電磁波)と共鳴して集団振動することで局所的に極めて強い電場(局在電場)が誘起される現象です。
その共鳴条件はレーザーの波長、入射角や金属の材質に強く依存するため、高強度レーザーの波長に最適な共鳴条件を持つ回折格子を、電子ビームリソグラフィ法で作成しました。
その回折格子に照射強度1019W/cm2の超高強度レーザーを照射した結果、SPR条件を満たす場合のみ、高エネルギー電子の生成量が数十倍へと劇的に増大することを見出しました。相対論的プラズマ粒子シミュレーションを用いた詳細な解析により、回折格子表面で数倍程度の電場強度増強を確認し、これにより物質へのレーザー吸収率が上昇して電子生成量が増大するメカニズムを解明しました。この電場増強率はナノフォトニクスが予測する理論値と一致しており、「高強度光であっても光の本質(線形応答の物理)は変わらない」ことを世界で初めて実証した学術的意義を持つ成果です。
現在は、この電場増強率を極限まで高め、量子真空が破壊される理論的電場強度「シュインガー限界」の突破を目指し、数千倍以上の電磁場増強を実現すべく、プラズモニックバンドギャップの複数モードを利用する「二段回折格子」や、局在型表面プラズモン共鳴をもたらす新しいナノ構造の開発に挑んでいます。この実現は、中性子星やマグネター周辺の極限宇宙環境を実験室に再現して検証する新たな宇宙物理学の開拓にも繋がります。
相対論的強度(1018W/cm2)を超える集光強度を持つレーザーを物質に照射すると、メガアンペアにも達する高輝度な電子ビームが生成され、その運動により高輝度なイオンビームやX線も生成されます。この時、物質表面にマイクロ/ナノサイズの表面構造、例えばカーボンナノチューブのようなナノ構造を付与すると、レーザーエネルギーの吸収率が増大し、量子ビーム生成量が増化することを明らかにしてきました。
この中でも、一方向に配向し、等間隔に並べられたナノワイヤアレイはアスペクト比が高く、表面積を大きく取ることができます。長さやアレイ間隔などの構造長を相対論的粒子シミュレーションを用いて最適化し、電子ビームリソグラフィーや陽極酸化アルミナを鋳型とした金属めっき法などでナノワイヤアレイを作成しています。これらを用いた実験では量子ビーム生成量の数十〜数百倍の増大を観測しました。
特に照射強度1022W/cm2を超える高強度レーザーを用いると、ワイヤ側面からレーザー電場によって引き出された電子の振動エネルギーはGeVに到達し、ワイヤ表面に形成された強い磁場により電子がシンクロトロン放射による高輝度なガンマ線を前方に放出することを相対論的粒子シミュレーションで明らかにしました。特にワイヤ材料が金属である場合、ガンマ線へのエネルギー変換効率が数10%を超え、その輝度は最先端のX線自由電子レーザーに匹敵します。この提案が世界最高のレーザー強度(1023W/cm2)が利用可能なルーマニアの欧州極限レーザー核科学研究所(ELI-NP)で評価され、2025年に同施設の1PWレーザー(1021W/cm2)を用いた予備実験を行い、ガンマ線生成量の顕著な増大を実証しました。現在今後の本実験に向けた準備を進めています。
このガンマ線源は、巨大双極子共鳴を利用した高分解能核分光に加え、長寿命放射性廃棄物の非破壊診断、核変換、医療用放射性同位体の生成など、多岐にわたる応用展開が期待されます。特にこのフェムト秒という特性を生かして原子核を瞬間的に励起し、原子時計・光格子時計を上回る性能を持つ原子核時計の開発や、ガンマ線レーザーの実現に挑戦していきます。
表面にマイクロ/ナノメートルの直径をもつフォーム(泡)構造を持つ金属を、金属表面に樹脂製のマイクロ/ナノパーティクルをテンプレートとして堆積させ、金属メッキした後に樹脂を取り除いて作成しました。高強度レーザー照射実験では、構造の無い金属に比べ生成される高エネルギー電子のフラックスが30倍以上増加する結果が得らました。さらにサイズの異なるフォーム構造を用いて実験した結果、ある特定の構造で高エネルギー電子の生成量が最大となることを見出しました。
相対論的粒子シミュレーションによる解析の結果、集光されたレーザーがさらにフォーム構造内部にて反射と屈折を受け、エネルギーが波長程度に集中することで、電磁場強度が大幅に増強することが示されました。これはいわばプラズマ集光鏡として働く、つまり集光鏡とターゲットが一体となり、効率的に高エネルギー電子が得られる構造でと言えます。特にマイクロサイズのフォームでは電磁場強度が10倍以上増加し、表面プラズモン共鳴に依存しない、つまり材料や入射角などに依存しない電磁場増強法としての応用が期待できます。
これらの実験で用いているナノ構造体は、京都大学、東京科学大学、関西大学、九州大学などとの共同研究により、電子ビームリソグラフィー法、化学エッチング、パルスレーザープラズマ堆積法(PLD)、熱化学気相蒸着(CVD)などを用いて作成しており、より正確な構造の制御や扱う金属種の拡大に向けての開発を継続して行っています。
量子ビーム源として実用化するためにはターゲット供給から計測までをシステム化・自動化し、連続的に運転していく必要があります。固体球ターゲットの10Hz連続供給する技術、画像認識を用いたデータ連続全自動解析システムの開発や、レーザー装置の高度化に関する技術開発も取り組んでいます。